七夕の夜は、いつもの町まで少しだけ違って見えます。
古い木造の家並みには、やわらかな灯りがともり、竹飾りに結ばれた短冊が夜風にそっと揺れていました。
その細い紙の一枚一枚には、誰かの願いが書かれています。
叶うかどうかはわからないけれど、それでも人は願いを書き、空を見上げるのだと思います。
白と藍色の着物をまとった彼女も、静かに夜空を見上げていました。
空には、数えきれないほどの星が広がっています。
そしてその星空を横切るように、無数の流れ星が降り注いでいました。
青白い光、金色の光、淡い銀色の光。
まるで空そのものが、今夜だけ特別に願いを聞いてくれているようでした。
彼女は大きな声で願いを言うわけではありません。
ただ少しだけ口元を開き、心の中でそっと願いを唱えているようでした。
その瞳には、流れ星の光が小さく映っています。
願いごとは、誰かに見せるためのものではなく、自分の中で大切に持っている小さな光なのかもしれません。
夜風が髪を揺らし、髪飾りが星の光を受けてきらりと輝きます。
着物の袖にも、天の川のような細かな模様が浮かび、七夕の夜に溶け込んでいました。
町の灯りはあたたかく、空の光は遠く澄んでいます。
その二つの光に包まれながら、彼女はただ静かに立っていました。
願いがすぐに叶わなくてもいい。
今この瞬間、空を見上げて願う心があるだけで、少しだけ前を向ける気がします。
流れ星は一瞬で消えてしまいます。
けれど、その一瞬の光を見た記憶は、思ったより長く心に残ります。
七夕の夜。
空いっぱいの流れ星の下で、彼女はきっと、小さくて大切な願いをひとつ、星に預けたのでしょう。
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