2026年3月18日水曜日
「和の静寂に溶ける、透明な微笑み」
音が、消えていく。
それは完全な無ではなく、余計なものだけが静かに遠のいていくような感覚だった。
畳の上に落ちる光は淡く、障子越しのやわらかな白が空間を包んでいる。
その中で、彼女は静かに座っていた。
まるで、そこに“いる”というより、景色の一部のように。
「静かでしょう?」
彼女は小さく微笑む。
その声さえも、この空間に溶けていくようだった。
確かに、静かだった。
けれど、それはただの静寂ではない。
どこか満ちているような、不思議な静けさ。
「何もないわけじゃないの」
彼女はそう言って、そっと目を細める。
「見えないだけで、ちゃんとあるの」
風の気配。
光の揺らぎ。
時間がゆっくり流れている感触。
普段なら気づかないものが、この場所でははっきりと感じられる。
彼女の微笑みは、とても透明だった。
感情を押し付けるでもなく、ただそこに在るだけのやさしさ。
「無理に何かを考えなくてもいいの」
その言葉に、少しだけ肩の力が抜けた。
「こういう時間も、ちゃんと大切だから」
どれくらい、そうしていただろう。
言葉を交わさなくても、何かが満たされていく。
ふと、外でかすかな音がした。
風が木々を揺らす音か、それとも遠くの誰かの気配か。
けれど、それさえもこの静寂を壊すものではなかった。
むしろ、静けさをより深くするように響いている。
「ね」
彼女が、もう一度こちらを見る。
「少し、軽くなった?」
その問いに、言葉はすぐに出てこなかった。
でも確かに、何かがほどけていた。
重く抱えていたものが、音もなく消えていくように。
「それでいいの」
彼女は、また静かに微笑む。
その微笑みは、やがて空気に溶け、景色の一部となっていく。
気づけば、そこにはただ静かな和の空間だけが残っていた。
けれど、その中には確かに残っている。
透明なやさしさと、言葉にならない安心感が。
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