放課後の教室は、昼間とはまるで別の場所のように静かだった。
子どもたちの声が消えると、黒板の前の空気までゆっくり流れている気がする。
忘れ物を取りに戻った私は、教室にまだ先生がいることに気づいた。
プリントをまとめながら、ふと顔を上げてこちらを見る。
「どうしたの?忘れ物?」
その言葉は、怒るわけでもなく、からかうわけでもなく、ただ自然だった。
「はい、ノートを…」
そう言いながら机を探していると、先生が少し笑う。
「たぶん、それ…そこじゃないかな?」
指さした先を見ると、本当にそこにノートがあった。
少し恥ずかしくて、「ありがとうございます」とだけ言う。
先生は手に持っていたマーカーを机に置いて、ふっと言った。
「ちゃんと取りに戻るの、えらいね。」
ただそれだけの言葉なのに、なぜか少しうれしくなる。
教室の時計がコツコツと音を立てる中で、ほんの短い会話が流れていった。
「気をつけて帰ってね。」
そう言って先生はまたプリントに目を戻した。
教室のドアを開けて廊下に出たとき、さっきまでの静かな空気と、先生のやさしい声が、なぜか少しだけ心に残っていた。
たぶん、特別なことは何も起きていない。
でも、こういう何気ない会話が、あとからふと思い出す時間になるのかもしれない。
そんな気がした放課後だった。
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