白く整えられた診療室の中で、彼女は少しだけ視線を落としていた。
いつもなら笑顔で迎えてくれるはずの場所で、その日はどこか空気が違っていた。
手に持った器具を見つめながら、ほんの一瞬だけ、ため息のような間が流れる。
忙しさなのか、疲れなのか。
それとも、誰にも見せない小さな悩みなのか。
歯医者さんという場所は、来る人の不安を和らげる場所。
でも、その裏側で働く人たちにも、きっとそれぞれの時間がある。
「少しお口、開けてくださいね」
その言葉はいつもと同じなのに、どこか静かで、少しだけ遠く感じた。
けれど、不思議と嫌な感じはしなかった。
むしろ、その人らしさが垣間見えたようで、少しだけ親しみが湧いた。
完璧な笑顔じゃなくてもいい。
少し元気がない日があってもいい。
人はいつも同じではいられないからこそ、
その揺らぎの中に、本当の優しさがあるのかもしれない。
帰り際、ふと彼女の方を見ると、
ほんの少しだけ、柔らかい表情に戻っていた。
その小さな変化に、なぜか心がほっとした。
きっと明日は、また違う笑顔に出会える。
そんな気がした一日だった。
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