2026年3月18日水曜日
「風と光のワルツ:秘密の花園で」
気づけば、そこは花に囲まれた庭だった。
柔らかな光が降り注ぎ、風は静かに、けれど確かに何かを運んでくる。
その中心に、ふたりの彼女がいた。
ひとりは、風のように軽やかな人。
長い髪を揺らしながら、くるりと回るたびに花びらが舞い上がる。
もうひとりは、光のように穏やかな人。
静かに微笑みながら、その場に立つだけで周囲をやさしく照らしている。
「遅かったね」
風の彼女が、いたずらっぽく笑う。
「でも、ちゃんと来られたみたい」
光の彼女が、そっと言葉を添える。
どうしてここにいるのかは分からない。
けれど、このふたりに会うためだったような気がした。
「ここはね、忘れられたものが集まる場所」
風の彼女が手を広げると、空気が揺れる。
花びらが舞い、遠い記憶のような景色が一瞬だけ浮かんでは消えていく。
「そして、それをもう一度思い出す場所」
光の彼女が、やさしく頷く。
その声は、胸の奥に静かに響いた。
「さあ、一緒に踊ろう?」
ふたりが同時に手を差し出した。
片方の手は風のように軽く、もう片方の手は光のようにあたたかい。
その両方に触れた瞬間、世界がふわりと回り出した。
風が音を運び、光がリズムを刻む。
花々が揺れ、空気そのものがやさしく歌い始める。
「感じて」
風の彼女が囁く。
「大丈夫、ちゃんとここにあるから」
光の彼女が続ける。
忘れていたはずの何か。
遠くに置いてきた感情。
それらが、ゆっくりと胸の中に戻ってくる。
気づけば、涙がひとしずく落ちていた。
「それでいいの」
ふたりの声が重なる。
風と光がひとつになるように。
やがて、ワルツは静かに終わりを迎える。
「また来てね」
風の彼女が笑いながら手を振る。
「いつでも待っているから」
光の彼女が、そっと目を細める。
次の瞬間、庭は淡くほどけていった。
残されたのは、風の気配と、やわらかな光。
そして心の奥で、確かに知っている。
あの秘密の花園は、消えたわけじゃない。
ただ、また思い出すのを待っているだけだと。
登録:
コメントの投稿 (Atom)

0 件のコメント:
コメントを投稿