診療室の空気が、少しだけ引き締まった気がした。
白い光の中で、彼女はほんの少しだけ眉を寄せている。
「ちゃんと磨けていますか?」
その言葉はやわらかいけれど、どこか真剣だった。
怒っている、というよりは――
見過ごせない何かがある、そんな表情。
手に持った器具はいつもと同じなのに、
その視線だけが、少しだけ強く感じられる。
もしかしたら、何度も同じことを伝えているのかもしれない。
それでも変わらない現実に、少しだけ心が追いつかないのかもしれない。
けれど、その奥にはきっと、
「ちゃんと良くなってほしい」という想いがある。
本当にどうでもいい相手には、きっとここまで向き合わない。
少しの苛立ちは、裏返せばまっすぐな優しさなのだと思う。
「もう少し丁寧に磨いてみてくださいね」
最後にそう言った彼女の声は、少しだけ落ち着いていた。
その表情も、ほんのわずかにやわらいでいる。
帰り道、さっきの言葉が頭に残る。
少しだけ反省しながら、でもどこかありがたい気持ちで。
次に来るときは、きっと。
あの表情を、少しだけ変えられるような気がした。
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