「……それ、本気で言ってるの?」
彼女はそう言って、じっとこちらを見つめた。
手には、つややかなオレンジ色のみかん。
指先で軽く持ち上げたまま、動かない。
「丸かじりって……皮ごとってこと?」
声は穏やかだけど、ほんの少しだけ低い。
怒っている、というよりは、呆れているのに近い。
人工的に整えられたはずのその表情が、
妙に人間らしく歪んでいるのが、逆にリアルだった。
「あなた、みかんに謝った方がいいと思う」
そう言いながらも、彼女はみかんを見つめる。
まるで、この小さな果実に意思があるかのように。
しばらくの沈黙。
「……ねぇ、本当にこれ、丸かじりするの?」
少しだけ、眉が寄る。
怒りと、ほんの少しの戸惑いと、
それから——なぜか少しの期待。
「ちゃんと剥けば、甘いのに」
ぽつりと落ちたその言葉は、
みかんの話なのか、
それとも、別の何かなのか。
彼女は結局、かじらない。
ただ、みかんを大事そうに持ったまま、こちらを見ている。
「もう一回聞くけど……ほんとに、それでいいの?」
その問いに、どう答えるかで、
この小さな時間の結末は変わる気がした。
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