2026年4月3日金曜日
もしも宝石の部屋に迷い込んだ夜のこと
あの夜のことを、うまく説明するのは少し難しい。
夢だったのか、それとも現実のどこかに本当に存在している場所なのか、今でもはっきりしないからだ。
気がつくと、僕はひとつの部屋に立っていた。
そこは普通の部屋ではなかった。
壁は深い赤を宿したルビーでできていて、静かに呼吸するように光を反射していた。
床はサファイアの青が広がり、水面のように揺れる光が足元を流れていく。
そして天井にはエメラルドの緑が広がり、空気そのものをやわらかく染めていた。
どこを見ても、光だった。
でもまぶしいのではなく、どこか優しくて、触れたくなるような光。
さらにその奥、透き通ったダイヤモンドが、月の光を細かく砕いていた。
虹色の粒子が空間に漂い、まるで時間がゆっくりほどけていくみたいだった。
そのとき、中央にひとりの女性がいることに気づいた。
淡く光をまとったドレス。
宝石の色と溶け合うような、不思議な存在感。
彼女は片手をそっと空にかざして、光に触れていた。
まるで、その光と会話をしているみたいに。
僕は声をかけようとしたけれど、やめた。
この静けさを壊してしまう気がしたからだ。
彼女は少しだけ微笑んで、ほんのわずかに視線を落とした。
その表情は、どこか懐かしくて、でも手の届かない距離にあるようにも感じた。
その瞬間、宝石たちの光がゆっくりと強くなり、
赤、青、緑、そして虹色が重なり合って、空間全体がひとつの流れになった。
気づけば、僕はその中に溶け込んでいた。
境界が曖昧になって、自分がどこにいるのかも分からなくなる。
——そして、目が覚めた。
いつもの部屋、いつもの天井。
でも、あの光だけが、まだどこかに残っている気がする。
あれはきっと、ただの夢じゃない。
今でもふとした瞬間に思う。
もしもう一度、あの宝石の部屋に戻れたなら。
今度は、ちゃんと声をかけてみようと思う。
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