夕暮れと夜のあいだ。
空がまだ迷っている時間に、その道は静かに続いていた。
桜は満開で、風に揺れるたびに花びらがひとつ、またひとつと舞い落ちる。
どこかで見たことがあるようで、でも確かに初めての景色。
そんな不思議な場所だった。
街灯の光がやわらかく灯りはじめる頃、
奥にひとり、こちらを振り返る人がいた。
白い着物。
静かな微笑み。
そして、ほんの少しだけ差し出された手。
なぜか迷いはなかった。
ただ、その手に触れてみたいと思った。
指先が触れたその瞬間、
小さな光が生まれて、ゆっくりと広がっていく。
桜の形をした光が、波紋のように空気を伝って、
夜の色をやさしくほどいていく。
気づけば、世界は少しだけ違って見えた。
さっきまでの重さや、言葉にならなかった気持ちが、
どこか遠くへ流れていく。
彼女の瞳には、桜の光が揺れていた。
人のようでいて、どこか違う存在。
それでも、不思議と安心できる距離。
この出会いに名前はない。
意味をつけるには、まだ早い気がした。
ただひとつ確かなのは、
あの瞬間、触れた光が、今も心の奥で静かに灯っているということ。
またあの道に行けば、会えるのだろうか。
それとも、あれは一度きりの奇跡だったのか。
答えはわからないまま、
今日もふと、空を見上げてしまう。
三日月の細い光が、あの日の続きをどこかで照らしている気がして。
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